ERPの選び方

日本の大手企業では1990年代後半から2000年代前半にかけて、これまで自社で開発してきた、いわゆるスクラッチ開発した基幹システムから、ERPへのリプレースが進みました。
その最初のERP導入から20年近くが経過し、
・ERPやそのハードのサポート切れ
・維持管理を依頼できる技術者の減少や高齢化
・システムの老朽化によるシステムトラブルの多発
といった課題に直面している企業が多数存在しています。
また
・会社の成長や業務の変化に現在のERPでは対応できなくなっている
・モバイルやクラウド対応など、ITの進化に追従できない
といった課題も多く聞かれます。
こうしたことが背景で、ERPの更新が急務となっている企業が多数存在しています。

そうした中で、最近のERP更新の傾向として、いくつかのパターンが存在しますので、ご紹介します。
パターン1は最もシンプルなやり方で、現行のERPを従来と同じ構成で新しいERPに置き換えるというものです。SAP ECCをSAP S4HANAにそのまま置き換えるというのはこのパターンに相当します。
パターン2は、これまでERPには含めていなかった機能を、新たにERPに取り込むというものです。これまでは生産管理はSAPは使ってこなかったけれども、ERP更新の機会に、生産管理もSAPに取り込むこととする、といったケースがこのパターンに相当します。
パターン3は、これまでは領域ごとに複数のERPを利用していたものを、ERP更新の機会に一つのERPに統合するというものです。これまでは会計はOracle EBS、生産管理はMCFrameと使い分けていたものを、ERP更新の機会にOracle Fusion Cloud ERPに統合する、といったケースがこのパターンに相当します。
パターン4はこれまでは一つのERPを利用していたものを、ERP更新の機会に2つのERPに分割するというものです。これまでは1つの環境のSAPを利用してきたものを、販社はSAP S/4HANA Public Cloud, 工場はSAP Private Cloudに移行する、といったケースがこのパターンに相当します。

前ページの説明でも少し触れましたが、ERPを最初に導入した1990年代後半から2000年代と現在では、ERP製品も大きく変化しています。
SAPではR/3、その後継のECCという製品から、SAP S/4HANAという製品に代わりました。
S/4 HANAはさらに3つに分類されますが、現在SAP社はOn Premiseでの新規構築を推奨していないため、それを除くとSaaS型のPublic Cloudと、SaaS型ではないPrivate Cloudの2つに製品に分類されます。
Oracle社はOracle EBS、People Soft、JD Edwardsといった複数のERPの機能を統合し、SaaS型のERPであるOracle Fusion Cloud ERPになっています。
またMicrosoftもERPの機能を充実させてきて、SAPやOracleと同等の機能を持つERPとなってきています。
こうしたERP製品の動きの中で、今のERP更新の検討のポイントは
・SAPを使うか、SAP以外のERPにするか
・SaaS型のERPを使うか、プライベートクラウドも含めた自社の環境でERPを持つか
という2つのポイントに留意して、検討していく必要があります。

このページではSaaS型ERPと非SaaS型ERP、SAPとSAP以外の4つの象限で、その特徴を整理しています。
まずSAPとSAP以外のERPの大きな違いとしては、一般に公開している、また容易に入手できる情報の多さが、SAPは圧倒的に多いと思います。
CoPilotやChat GPTを利用することで、これまではSAPコンサルタントに聞かないとわからなかった情報でも容易に入手できるようになっています。
また導入パートナーや技術者の数でも、SAPはそれ以外のERPを圧倒しています。
一方でSAPは、標準機能が多い代償として、導入コストが高いというデメリットがあります。例えば販売価格のマスタを設定する場合でも、SAP以外のERPは構成がシンプルで設定も容易ですが、SAPのマスタは構成が複雑で、設定工数も多く必要になりますので、導入コストがERPよりもどうしても多くなります。
SaaS型ERPと非SaaS型ERPでは、自社固有要件への柔軟性に大きな差があります。
しかし導入コストは、SaaS型ERPのほうが大幅に低くなることが一般的です。

それではまとめに入ります。
まず現在のERP選定では、
1.SAPを使うか、SAP以外のERPを使うか
2.1つのERPにするか、複数のERPを組み合わせるか
3.SaaS型ERPを使うか、または(Private Cloudを含めて)自社のERP環境を持つか
がポイントになります。
またビジネス領域ごとの特徴も考慮する必要があります。具体的には下記の特徴を考慮します。
・導入コストがかかる領域とかからない領域
・自社固有要件が多い領域とそうでない領域
・保守パートナーの入れ替えがしやすい領域と難しい領域
こうしたビジネス領域ごとの特徴も考慮して、ERP選定を進めます。
具体的には、ERPベンダーや導入パートナーの候補から情報収集を行い、どのERP、どのパートナーが良いか、そして自社にとってどういう組み合わせがベストかを決めていきます。
近年のERP導入では、導入パートナー1社ではすべての領域をカバーすることがむずかしくなっています。
どのERP、どのパートナーが良いか、そして自社にとってどういう組み合わせがベストか、収集した情報に基づいて決めていきます。